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背が伸びる。切った髪や爪が、また伸びる。
そして、何より――失っていた肉体を取り戻したのだと、痛感したのは『声』だった。
声はずっと出ていたし、話す事も出来ていた。
だけど、仕組みは解らないけど鎧の時は魂から直接、声が出ていたんだと思う。
……そうじゃないと、元の体を取り戻してから僕が抱いた違和感が説明出来ないからだ。

(今だと、喉とかお腹とか……つまりは、肉体を経由して出てるんだよね)

だから寝起きの時などは、喉が渇いてるから声が出ないし。
昼になっても少し低いって言うかくぐもってるって言うか、そんな感じで数日経ってもまだ慣れないでいた。

「そっか? オレには、同じに聞こえるけどな」
「……まあ、他の人もそう言うけど」

同じ病室に入院している兄さんからは、そう言われた。まあ、予想通りだった。
だけど、続けられた言葉に僕は軽く目を見張った。

「これから、声変わりとかもするんだよな……ま、オレの渋さにはかなわねぇだろうけど?」

そう言って、兄さんは僕を見て嬉しそうに笑った。本当に素直に、これからの僕の成長を喜んでくれていた。
それは衰弱し、満足に動かせない体への不安を、一気に吹き飛ばしてくれる笑顔だった。



『綺麗な茉莉花、綺麗な茉莉花』

あれから僕は背が伸びて、こうしてシン国の歌を歌う声もあの頃より低くなった。
一方の兄さんも成長はしたけど、渋いって言うよりは綺麗になったって言う方がピッタリで。
だからそれぞれ東西に別れて旅をした後、再会した時は僕を見て複雑そうだったけど――おかげで僕を意識してくれて、無事『恋人』になれたから万々歳だ。

(寝顔は、あの頃のまま可愛いけど)

声に出さずにそう思い、僕の膝を枕にして眠る兄さんを眺めながら子守歌代わりの童謡を歌う。声変わりをした僕の声で、昔からずっと変わらない気持ちを込めて歌う。

『庭中に咲いたどの花も、その美しさにはかなわない』

歌に出てくる白い花のように、誰よりも綺麗な兄さんを想って――我知らず微笑みながら、僕は歌う。



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